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NBKベンチャー大学・投資家養成講座

 

ベンチャー投資の意義とリスク


主  催:関西ニュービジネス協議会・NBKベンチャー大学実行委員会
開催月日:2002年2月23日
開催場所:日本経済新聞社大阪本社




ベンチャー投資の意義とリスク

講師  塩沢由典(しおざわ・よしのり) 

大阪市立大学教授 

講師紹介

1943年長野県生まれ。京都大学理学部数学科・同大学院修士課程終了。同理学 部助手。フランス留学中、経済学に転向。京都大学経済研究所助手を経て、大阪市立 大学助教授。1989年より、現職。

1985年以来、市場経済を複雑系とみる視点を掲げた、複雑系経済学の旗手。人 工先物市場U−Martを立ちあげ、計算実験による金融市場研究をも手掛けてい る。進化経済学会副会長、社会・経済システム学会編集委員長、U−Mart組織委 員会委員長などを務める。「複雑系経済学入門」(生産性出版、1997)は、複雑系経 済学の成果を一般の人に分かりやすく解説した好著。

関西ニュービジネス協議会発足以来、NBK大賞審査委員長を務めるほか、関西生 産性本部・学研都市推進機構などで、関西経済の活性化に向けた提言や研究を行って いる。

早くからベンチャー・ビジネスの重要性を説き、1989年度大阪市立大学企画講 座「ベンチャービジネス論」を主宰、日本ベンチャー学会理事・編集委員。2月12 日設立の関西ベンチャー学会では、会長に予定されている。

著書に「市場の秩序学」(ちくま学芸文庫、サントリー学芸賞受賞)、「複雑さの帰 結」(NTT出版)、(編)「大学講義ベンチャービジネス論」(阿吽社)、(編)「進化と いう方法」など。

なぜ、いまベンチャーか

(1)現在/第3次ベンチャー・ブーム

第1次 1970年代前半 清成忠男・中村秀一郎・平尾光司『ベンチャー・ビジネス』日本経済新聞社、1971。
第2次 1980年代前半 1987年「ニュービジネス協議会」−>90年社団法人化
第3次 バブルの崩壊、経済低迷、アジアの追い上げ−>1992年以降
  通産省(「中小企業」の代わりのように使っている場合もある。)
  宮城県立大学「事業構想学部」(中村秀一郎)
  新聞にも「ベンチャー」欄 日経新聞だけでなく、毎日新聞にも
  中小企業基本法の改定−>弱者救済から新産業創造の担い手へ

(2)ベンチャーってなに?

ベンチャー=venture (ex: a new business venture) 危険(risk)を伴う事業
  高い失敗確率があるが、成功したときには高い収益が期待できる事業
  (企業内の新規事業でも、最初からの立ちあげ企業start-up企業でもよい。)
ベンチャーに乗り出すにも、投資するにも、(失敗する)倒産の可能性の高いことを覚 悟。

(3)なぜ、(他ではなく)ベンチャーか

20世紀=大企業・巨大組織の時代
  20世紀は特異な時代
  19世紀半ば1860年の米 製造業の平均1社10人程度
  19世紀第4四半世紀 大合併の時代(米、英、独、[日])
  社会主義計画経済 巨大組織信仰を国家全体に当てはめようとして失敗
21世紀の企業像
  取引費用の激減(IT革命とはなにか)
  取引費用=売買・条件交渉・計算などにかかる費用
    →多くが市場取引でより効率的に済ませられる。
  大企業であることの「悪いところ」が目立つようになる。
    意思決定の遅さ、官僚主義、事なかれ主義
  逆に、ベンチャー企業の活躍の可能性が増大する。

ベンチャー育成の重要さ

(1)ベンチャー:経済発展の主要な担い手のひとつ。

シュンペーター (20世紀の経済学者として、ケインズより偉大かもしれない。
『経済発展の理論』(1912:26、岩波文庫、上下)
  企業家活動・企業家精神を経済学の鍵概念とした。
新結合/イノベーション
a.新商品の開発 b.新しい生産方法の導入 c.新しい販路の開拓
d.原材料の新しい供給源の獲得 e.新しい組織の実現
よき投資家の存在が、活力あるベンチャー企業を育てる。

(2)日本における特別な必要/せっぱ詰まった理由

熾烈な国際競争・追い上げ
  日本が世界最高の賃金水準の国(日本 29,220ドル/人 1992GNP)
中国・インド・アセアン・4匹の虎(中国380ドル/人、インド310ドル/人)
国際的な競争条件の悪化
国内:富裕化、高賃金、高齢化、挑戦しない気風、生産現場の技能低下、制度
疲労
国際:アジア諸国の工業化、技術水準の向上、低賃金(1:70)、生産基地移転
他にはない、新しい技術・商品・サービスを開発する。
  これらの担い手がベンチャー・ビジネス。
ベンチャー投資は、このような企業に水を掛け、育てること。

ベンチャー投資家の社会的重要性

(1)VCが産業革命をリードする。

ヒトゲノム計画
    政府系15の研究所による国際コンソーシアム、15年計画(1990-2005)
 ベンター(セレラ・ジエノミックス社、1998年創業)が計画を5年短縮して、
ほぼ完了
アメリカのバイオ・インフォマティックス
 西海岸にバイオ・ベンチャー族生
    500社以上という話も。伝統も、政府援助もない。  
 シリコン・バレーには、有力バイオ・ベンチャー50社
次はプロテオーム
 ゲノームだけでは、薬にならない。
ベンチャー企業家が説き、ベンチャー投資家が育てる。

(2)日本の問題

VCの勉強たらず
 銀行・証券系がいまだ多数派
 技術の動向と育て方を知らない。
 ブームに踊り、クラッシュに泣く。
例:日本のeビジネス投資
光通通信、クレイフィッシュなど 高値の約1/100に
専門家の不足/幅広さも重要  
健全な投資家育成の必要性
  NBKベンチャー大学・投資家養成講座への期待

ハイテク地場産業を育てよう

(1)ハイテク地場産業の例:関西の液晶(LCD)関連企業

シャープ(2400億円、約25%;液晶のデパート、1973世界最初の電卓LCD)、
三容真空工業
(成膜メーカーt)、日本写真印刷k(配向膜塗布装置、60%)、積水ファインケミカル (ス

ペーサー、70%)、三星ダイヤモンド工業(スクライバーt)、日東電工(偏光板、
1/2)、アプ
ライド・コマツ・テクノロジーh(プラズマCVD、70%)、日新電機(イオン注入t)、 大日

本スクリーン製造k(超音波洗浄装置、スピン・コーター、1/2)、ミノルタ(検査装 置 t)、

タバイエスペック(ベーク炉、45%)、テクノスn(検査装置V)、アユミ工業h(液晶注入 装置v)

(2)ハイテクも地場産業化する。

競争前段階の知識を共有する。
技術知識の3段階  競争段階以前、競争段階、競争段階後
シリコン・バレーはなぜ強いか: ルート128とシリコン・バレー
商品化段階に他地域より2年前にたどりつく。
世界経済時代/競争は地域間でも行われている。
ハイテク産業 Winner takes all.(複雑系経済学) 
地場産業化すれば、他地域では追いつけない。

(3)関西で育てるべきハイテク産業

種を撒かねば収穫できない。
a)カーボン・ナノチューブに注目
  日本の固有技術  飯島博士の発見、大阪ガスが量産技術。
  しかし、とうめん、もっと多様な用途開発を。
    カーボン繊維とゴルフ・クラブ
  技術的ブレーク・スルーは、周辺から生まれる。
b)情報家電
家電メーカーの拠点
各社の協力で、世界標準作りをめざせ
c)バイオィンフォマティックス
製薬の本場/多くのバイオ研究機関(医学部・農学部・蛋白研・バイオ研・先端
大) 注目すべきバイオ・ベンチャー
丸和栄養食品・伊中浩治 1999年NBK大賞・本賞
d)IT関連ソフト生産
  コンテンツ産業(音楽、映像、Cゲーム、文学、学問)
コンピュータ・ゲーム  任天堂の存在−>カプコンなど

ベンチャー投資の特異性

(1)高リスク・高リターン

ベンチャー支援は投資(ないしその類似形態)でなければ、成功しない。
アメリカのVB
10社の内、5〜6年で2つが成功、株価20倍以上。
3から5は鳴かず飛ばず。倒産はしないが、飛躍もしない。
        3から4は倒産。

投資家の自己責任

投資先企業が倒産したとき、投資資金は失われる。
投資家は、この危険を踏まえて投資しなければならない。
成功例での高いリターンは、この危険負担の対価。

(2)評価の難しさ

創業支援は競馬と一緒
  いくら目利きでも、確実には予見できない。
10の内2つが成功して資金が10年で4倍になれば、他を償却しても年利15%の収 益。

評価の精度は上げなければならないが、限度がある。
  →分散投資の必要
「リスクの経済学」の不十分さ リスク回避かリスク指向かですまない。
期待水準を7割以上の確率で確保する。(一件でこの条件を満たすものはな
い)
事後の支援
経営指導、技術指導、業務提携、販路確保、人材紹介、コンサルティング
無料ではなく、有償で行えるように(行政・投資家の場合を除く)
創業者や援助者にストック・オプションを
ベンチャー企業を羽ばたかせるのになにが必要なのか。

投資リスクを体験する

ベンチャー投資のリスクがどういうものか、みなさんに疑似体験してもらうために、 以下のゲームをしてもらいます。

シナリオ

(1)皆さんは、各自1000万円の資金をもっていると仮定します。

(2)投資先企業の紹介

投資投資募集中の企業のリストが配られます。

(3)1回目の投資    

全額を1企業に投資してください。
カード1に投資先を記入してください。
カードを提出して、結果の発表を待ちます。

(4)1回目の結果発表

第1回投資から5年立ちました。
結果がどうなったか、コンピュータに計算してもらいましょう。
結果を発表します。

(5)2回目の投資

今回は、ひとつの会社への投資の最小単位は、100万円です。
ひとつの会社に全額投資することもできますし、投資先を数社に分けて投資すること もできます。定期預金で持ち越すことも可能です。

投資計画をカード2に記入してください。
カードを提出して、結果の発表を待ちます。

(6)2回目の結果発表

第2回発表から5年立ちました。
結果がどうなったか、コンピュータに計算してもらいましょう。
結果を発表します。

(7)感想発表

みなさんの投資計画とその結果について、皆さんが感想を述べます。

(8)講師論評

みなさんの投資行動および結果について論評します。



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