関西経済論 原理と議題>進化経済学会ML

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2010年4月11日投稿

塩沢由典 日本経済のことを考えるのに、日本経済論がなければならないと同様に、関西経済のことを考えるには関西経済論が必要です(本当は、それ以上に必要ですが、その理由は後に述べます)。地方の時代とか、地域主権とか、道州制とか、いろいろ議論されていますが、地方経済の持続的な発展を考える地方経済論がぜひ必要と考えています。日本の経済政策を考えるのに、日本経済論が必要なように、地方の経済政策を考えるためには、各地方ごとの地方経済論が必要です(わたしは、それを「固有名詞をもった地方経済論」と呼んでいます)。今度の本は、そうした方向への第一歩になるかと考えています。もちろん、決定版というのではなく、こんご各地方の人たちがそれぞれの地方経済論を書かなければならないとおもいますし、関西経済論も、もっと若い世代の人たちによる第2弾、第3弾が必要とおもいます。

もちろん、これまでも関西経済論あるいは九州経済論、北海道経済論、北陸経済論といったものがありました。しかし、従来の地方経済論は、各地方の歴史を追いかけたのもの、産業の紹介に終わっているもの、政府の地域政策を批判したものなどが大部分を占めています。自分たちが住む地域/地方を自らの責任で守り立てていく。そのためには、現在の経済をどうしていかなければならないか。こうした主体的な立場からの考察・分析が乏しいと、全体性にも問題があります。地域の住民が主体性をもって地域経済のことを考えるには、経済発展の基本過程にまで立ちもどって考えなければなりません。今回の『関西経済論 原理と議題』では、こういう観点で大胆な展望を示したつもりです。

もちろん、すべての必要な論点がカバーされていると言うつもりはありません。いろいろ欠けている論点は多く、また具体的な政策の提示に欠けているといった批判は覚悟しています。いろいろ書くのでなく、地域の経済発展とはいかなる過程か。これをJane Jacobsの考えを基礎に展開してみました。会員の皆さまには、ご一読いただければ幸いです。

最初に日本経済論以上に各地方の経済論が必要と書きました。Jacobsの考えによると、経済学は重商主義の時代から経済の単位を国民国家と考える過ちを犯してきました。彼女によると、経済発展の単位は、都市とその都市地域です。各地方の中核都市を中心とした地方経済論を積み重ねて、始めて日本経済論も全体的なものになるわけです。


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